鹿と戯れながらこんにちは。ロカフレ編集部のダイソン後藤です。
ちなみに今僕がどこにいるかわかりますか?
鹿と言えば奈良。そう、ここは奈良公園です。
……え? 鹿は奈良公園以外にもいるじゃないかって?
確かに。広島の宮島なんかも、観光地に鹿がいますよね。でも僕の左手をよく見てください。何か持ってますよね?
これは”鹿せんべい”です。
そして鹿せんべいを売っているのは奈良だけ! ちなみに宮島は鹿へのエサやりが禁止されていますね。
どうして鹿せんべい売り場を襲わないの?
そんな鹿せんべいについて、僕は長年ある疑問を抱えてきました。
これです。
奈良のシカは鹿せんべいが大好き
ピンとこない方もおられるかもしれませんが、奈良公園に約1200頭いる野生の鹿は、人間に慣れていて、近づいてもほとんど見向きもしません。
完全にスルー
ところが、奈良公園のいたるところで販売されている”鹿せんべい”(150円)を購入すると……
めっちゃ寄ってきます。
かなり強めに寄ってきます。
奈良公園の鹿は、鹿せんべいを猛烈に欲しているのです。
しかし!!
これは売り場で鹿せんべいを購入しているところなのですが、
けっこう無造作に置かれているんですよね、鹿せんべい。
でも鹿は、売り場は襲わずに、観光客が購入するのを待ってから貰いにきます。
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なんで観光客が購入するのを待ってから襲うの?
そんなに欲しいなら普通売り場を襲わない?
もしかして忖度してる?
鹿に裏金でも流れてるの?
と、どんどん疑問が湧いてくるわけです。
販売員の方に聞いてみた。
というわけで聞いてみました。
襲うそうです。
いやいや、待ってください。
販売員の方がおっしゃるので事実なのだとは思いますが、僕は鹿が売り場を襲っているところを見たことがありません。
もう少し聞いてみました。
なるほど。
奈良公園の鹿は、売り場を襲うことは襲う。
でも、観光客がいるときはそちらからもらった方が楽だということを知っているから、売り場を襲うシーンを目撃することがほとんどない。ということでした。
鹿。かわいい。
口で言って聞かせてみた。
それにしても鹿ってかしこいんですね。
どうやら目を見て口で伝えれば、きちんと伝わるようです。
というわけで試してみます!!
「待て!」
「あ、待ちなさい!!」
「待てってば!!!」
食べられました。
ただ、こいつが極端に食いしん坊なだけかもしれません。僕も「待て」は苦手です。
一頭だけではまだわからないのでもう一頭試してみましょう。
「いいか? 待てよ。」
「待てよぉ!!」
「待てって言っただろ!」
「もう!!ばーか!ばーか!!」
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現場からは以上です。
奈良のシカについてもっと聞いてみた。
……と、これでは少し寂しいので、奈良公園の鹿を保護育成しておられる”奈良の鹿愛護会”の方にもお話を伺いに行きました。
というのも、鹿せんべいの売り上げの一部は、「奈良のシカ」の保護活動に活用されているらしいのです。
奈良の鹿愛護会とは?
奈良の鹿愛護会 事務局長 吉岡さん
奈良の鹿愛護会 石川さん
ちなみに”鹿せんべい”という名前は奈良の鹿愛護会の登録商標で、奈良の鹿愛護会が販売する証紙がないものは、”鹿せんべい”とは言えない。
この十字に巻かれた証紙があるものが、本物の”鹿せんべい”
奈良公園や、その周辺の鹿は「奈良のシカ」として国の天然記念物に指定されています。しかし、あくまで野生の鹿なので、人間との共生を成り立たせるには「奈良の鹿愛護会」の活動欠かせません。
鹿の角きり
この立派な角は1年足らずで成長したもの!
写真:奈良の鹿愛護会
奈良公園にいる1200頭のうち、雄は約250頭だそうです。それだけの角きりをなんと11人の職員さんだけで行っているらしい!!
11人で250頭って大変すぎる!!
鹿の飛び出し注意
奈良駅を出るとこういう看板があちこちに見られる。
パンフレットも作成しておられます。
子鹿をさわると親が育児放棄!?
保護されている雌鹿
この施設は鹿苑(ろくえん)といって、一般の方も見ることができます。
保護しているとはいえあくまで野生の鹿です。出産するタイミングを計って室内に入れるわけでもないので、運が良ければ出産シーンを見ることもできるそうです。
いわゆる「生まれたての子鹿」のイメージ通りの、一生懸命立ち上がろうとするシーンが実際にあって、無事に立ち上がれた瞬間には自然と拍手が沸き起こるらしい。
鹿に噛まれたらヤバい?
奈良公園の鹿は、鹿せんべいをあげるとお辞儀をすることでも知られている。一枚の鹿せんべいでお辞儀をたくさん見たいがために、じらしたりすると、鹿が怒って体当たりをしたり、鹿せんべいごと手を噛んだりすることもあるのだそう。
だから鹿せんべいを持って、じらすことはしてはいけません。
……反省しています。
でも鹿の上あごには切歯がないため、そこまで痛くはないし、血が出ることもまずないのだそう。
奈良公園は動物園ではなく、ここにいる鹿はあくまで野生の鹿です。
基本的には自己責任なので、鹿を怒らせるようなことはしてはいけません。
どうして奈良には鹿がこんなにいるの?
畑を荒らしてしまった鹿は……
出産を控えた鹿や、けがをした鹿、それから人間の畑を荒らしてしまった鹿などが保護されている鹿苑(ろくえん)も見学させていただきました。
一般の方も自由に見学ができます。
こちらは雌。エサを食べている。
こちらは雄。人をケガさせる心配がないため、角はまだ残っている。
金網越しとは言えすごい迫力
ちなみにこの鹿苑では鹿にドングリをあげることができます。
金網越しに転がすだけなので、鹿せんべいを直接あげるのが怖いというお子さんなんかにはオススメです。
ちなみに奈良公園はすごく広くて、鹿苑は入口からかなり遠いので、駐車する位置には気を付けてください。
鹿どうしで角をぶつけ合うシーンも
それから衝撃的だったのがこれ。一頭の鹿の胃の中から出てきたゴミです。
インクの付いた紙なども問題(鹿せんべいについている証紙は100%パルプで大豆インクを使用しているため害がない)ですが、それ以上にビニールなどは消化できないので、食べたら食べただけ胃の中に溜まっていきます。
これが原因で即死することはほとんどありませんが、胃の中がゴミで埋まると、食べ物が入るスペースがなくなって衰弱して行ったり、ひどい場合は窒息死することもあります。
ポイ捨てはもちろん全てダメですが、特にビニールは絶対に捨てないでください。
奈良のシカの歴史
こちらは奈良のシカの歴史。実際に見てもらえればわかると思いますが、江戸時代や明治時代の鹿の頭数などの記録が正確に残っていて驚きます。
奈良の鹿愛護会自体が発足したのは1947年ですが、それ以前から春日大社であったり別の保護団体であったりが継続して奈良のシカの保護、頭数調査などを行ってきていたのだそう。
その伝統を受け継いで、奈良の鹿愛護会も毎年7月の15日16日に、奈良のシカの頭数調査を行っています。
ここ20年ほどはずっと1100頭~1200頭ほどらしい。
この頭数調査はボランティアの方の協力の下行っていますが、これも奈良の鹿愛護会の大切なお仕事です。
まとめ
「奈良公園の鹿はどうして鹿せんべい売り場を襲わないの?」という少しふざけた疑問から始まった取材でしたが、最終的にものすごく真面目なお話を聞くことができました。
記事としては、なんだかタイトルで釣ってしまったみたいになって申し訳ないです。
ただ、取材中にも鹿が車に轢かれそうになる、危ないシーンを何度か見かけました。
すでに「奈良のシカ」は観光化しており、歴史的に見ても奈良市のこの場所から鹿がいなくなることはまず無いでしょう。
そうなると、どれだけ上手く共生していくか、ということが大切なのだと思います。
車に轢かれたら、鹿がかわいそうっていうことはもちろん、乗車している人がけがをするかもしれないし、車の修理だって当事者になってみたらバカにならない問題だと思います。
鹿の角を切る人がいなかったらケガをする人も出てくるだろうし(戦前にも、動物愛護の観点から角きりをやめた後に、角でケガをする人が続出して社会問題となり、角きりが再開されたという過去があります。)、野生の鹿とは言え、角きりも必要だと思います。
あとやっぱり鹿かわいい。
なんかそういう諸々を含めて、とりあえず気持ちだけですけど、100円だけ募金しておきました。
ちなみに奈良の鹿愛護会のHPからも寄付はできるみたいなので、寄付するしないはともかく、どんな活動してるのか、ってことは知ってもらえると嬉しいので、ぜひ覗いてみてください。
(おわり)