前編でもお伝えした通り、僕たちは琵琶湖一周釣り対決をしてきました。
結果は4勝6敗で僕たちの負けだったのですが、この対決の途中で、勝ち負け以上に重大な問題にぶつかりました。
それは、外来魚問題と生命の話です。
命の話というと急に胡散臭くなりますが、そんな怪しい話でもなければ偉そうな話でもありません。
目次
外来魚と琵琶湖
まずはこちらをご覧ください。
これは「外来魚回収ボックス」と言い、琵琶湖にある釣りスポットの多くにはこの箱が設置されています。
琵琶湖での釣りのルールに「外来魚のキャッチ&リリース禁止」というものがあり、外来魚(ブルーギルやブラックバス)は、釣ったら放流することが禁止されています。
というのも、琵琶湖は1960年代の後半から外来魚が放流されはじめ、琵琶湖の生態系が崩れ始めたことがきっかけです。
1990年代にはブルーギルやブラックバスなどが爆発的に増加し、モロコやフナ、スジエビなどと言った元々琵琶湖に生息していた在来魚が大幅に減少し、ほとんど姿をも見ることがなくなりました。
その対策として滋賀県では2003年から外来魚の再放流を禁止する条例ができ、かと言って釣った魚を持って帰るわけにもいかないので、その受け皿として「外来魚回収ボックス」が設置されたというわけです。
この外来魚問題が個人的にものすごく胸に引っかかっているんです。
ぜひ皆さんも一緒に頭を悩ませていただければと思います。
琵琶湖を戻す会
まずは、外来魚問題と17年間向き合い続けている「琵琶湖を戻す会」の代表にお話を聞きに行きました。
「琵琶湖を戻す会」代表の高田さん
まだインターネットも普及していない時代に、パソコン通信で全国の淡水魚好きと交流を持っていたという高田さん。関西以外の人たちは、淡水魚の聖地とも言える琵琶湖で釣りをすることに憧れ、大阪にお住いの高田さんが琵琶湖を案内することが増えてきたのだそう。
外来魚を釣り上げて駆除を始めた高田さんたちですが、釣っても釣っても釣り切れるような量ではありません。これは自分たちだけではどうにもならない。まずは社会の人たちにこの問題を知ってもらうことから始めないといけない。ということで外来魚駆除を目的とした釣り大会を開催するように……
高田さんはこうおっしゃっていますが、滋賀生物多様性大賞 特別賞なども受賞されているすごい団体です。
まず17年間、利益など一切ない活動を、思い一つで続けるなんて到底真似できるようなことではありません。
リリース禁止条例について
2003年に制定されたリリース禁止に関する条例。2002年に行われたパブリックコメント(条例などを制定する際に、事前に市民の声を聴くためのもの)には、パブリックコメントとしては異例の、2万件もの意見が届いたという。
2000年から外来魚駆除の活動をされておられた「琵琶湖を戻す会」は、他に同じような団体がなかったこともあり、条例に反対する釣り好きの方たちの批判を一手に集めたらしい。
結局条例が制定され、社会的にも外来魚問題が浸透していったことで、段々と収束していったそうですが、当時の話は本当に壮絶なものでした。
駆除って実際に意味はあるの?
実際に僕たちも琵琶湖を一周しながら釣りをしてみたところ、本当にブルーギルだらけでとても釣り上げきれるとは思えなかったので、正直に聞いてみました。
実は高田さんは、琵琶湖を戻す会の代表をしておられるだけでなく、他にも様々な団体の要職を務めておられます。その中でも「淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク」という淀川で活動している団体ではその成果が表れているそうです。
高田さんの名刺
外来魚問題と言えば琵琶湖ばかりに目が行きがちですが、日本全国各地の問題です。淀川もその一つで、外来魚の放流・繁殖が原因で、日本国指定の天然記念物であり、国内希少野生動植物種でもある「イタセンパラ」という淡水魚が淀川から姿を消しました。
しかし、高田さんたちの呼びかけで、企業や大学などと連携して外来魚駆除を行い、なんと「イタセンパラ」が淀川に帰ってきたのです!
そう熱く語る高田さん。琵琶湖と淀川では規模が全く違うとは言いつつも、高田さんたちの活動の成果もあって、2013年までは外来魚の推定生測量が減り続けていたそうです。しかし、外来魚が減ってきたことによって、国からの補助金も少なくなり、今ではリバウンドしてしまい、逆に外来魚の数が増えてしまったのだという。
「琵琶湖を戻す会」では、定期的に外来魚駆除を目的とした釣り大会が開催されています。
少しでも興味を持たれた方はぜひ一度参加してみてはいかがでしょうか。
命をどう扱うか
高田さんのお話を伺って、外来魚を何とかしなければならない。そのために自分も何かできることをしたい。と思ったのですが、琵琶湖一周釣り対決をしている最中に、釣り人の方から聞いた話にも、無視はできないものがありました。
僕たちは放流する。
琵琶湖での外来魚の放流は条例によって禁止されています。しかしそれを知った上で、「僕たちは釣った魚は放流する。」と、はっきり言い切る方々がおられました。
1人や2人ではありません。もちろん全員ではありませんし、条例をきっちり守っておられる方もいました。それでも、琵琶湖の釣り人にはそういう方々が少なからずおられます。
しかし、彼らの話がただの身勝手な意見ではないような気もするのです。
最初にお見せした外来魚回収BOX
その中身です。
おわかりでしょうか?外来魚回収BOXは、言ってしまえばゴミ箱と同じ構造です。
マナーの悪い方が捨てたであろうペットボトルが入っているような場所もありました。(滋賀県として英語表記や日本語表記で『ゴミを捨てないでください』という旨を記していても、ゴミは捨てられるそうです。回収ボックスはゴミ箱ではありません。絶対にゴミを入れないでください。)
ここにブルーギルを入れるのですが、当然生きているので中でビチビチと跳ねるのです。
正直この行動に違和感を感じていました。
そんな中で釣り人の方に言われました。
……確かにわかるんですよね。
じゃあ針を食わせて生き物を釣り上げる行為そのものはどうなんだ。
とか、
普段魚食ってるだろ?それだって殺してるじゃないか。
とか、
まぁそういう考えもわかるんですけど、本音と建て前っていうか、子どもの前では、みたいなのってあるじゃないですか?
例えば僕なんかは、こんなとこ車通らないし信号機いらないだろ!みたいな信号は無視しちゃうんですね。
(みんなそうだよね?ここで批判とかしないでね。)
でもランドセル背負ってるような小学生が近くにいたら赤信号は待ちます。
回収BOXにしたって、僕が利用する分にはそこまでの嫌悪感は無いけど、子どもにはそういうのして欲しくないんですよね。
生き物は大切にしなきゃいけないんだよ。命は粗末にしちゃいけないんだよ。って言いたい。
矛盾してるような気もするんですけど、大人的にOKだから子どももOKってのはまた違うと思うんです。
それと同時に、ルールは守らなきゃいけないよ。とも言いたいんですけど。
だから、外来魚を駆除しようってことは個人的には賛成ですが、外来魚回収BOXに子どもが生きた魚を投げ入れてる姿を想像すると、何ともモヤモヤしてしまう。
高田さんに聞いてみた。
このモヤモヤした気持ちを高田さんにもそのまま伝えてみました。
話はわかります。それはすごくわかる。
ただ、リリース禁止を守ろうとしたらどうしても回収BOXを利用せざるを得ないのが現状です。
高田さんもおっしゃられるように、生き物を殺すことを強要したい。と思っておられるわけではないのはものすごく伝わるのですが、それ以外に選択肢が少ない現状では、その声が上がるのもわかってしまうんですよね。
実はこんなものもあります。
『外来魚回収いけす』です。
ここなら、違和感なく放り込めたんですよね。もちろん最終的には駆除されるから、結果は一緒なんですけど……
ただ、この『回収いけす』は、『回収BOX』の数に対してものすごく少ないんです。
回収する手間を考えたら、袋を交換するだけですむ回収BOXの方がどう考えても楽ですもんね。
釣り対決の前編でちらっと紹介した子ども連れの方々はどちらも『回収いけす』がある数少ない釣り場で出会いました。
なぜこの場所で釣っていたのかは聞けなかったので、偶然かもしれませんが、もしかしたらご両親は、『回収いけす」がある場所を選んで子どもを連れてきていたのかもしれません。
余談ですが、「琵琶湖を戻す会」は、利益などは全くなく、外来魚駆除の釣り大会の参加費と、たまにご厚意でいただくという寄付金だけで運営しておられます。
もし気持ち分を寄付したいという方がおられればこちらのアドレスからお問い合わせください。
E-mail: masahiko.takada@nifty.ne.jp
滋賀県庁に話を聞きに行ってみた
さて、回収コストだったり、そもそもどうやって回収しているのか、などがわからなかったので、滋賀県庁に行ってみました。
場違い感がすごい。
回収BOXなどを設置している『琵琶湖環境部 琵琶湖政策課』でお話を伺ってきました。
担当の粟津さん
- 外来魚回収BOX、回収いけすの設置
- 外来魚釣り上げ名人事業
- びわこルールキッズ
など様々な取り組みをしておられる『琵琶湖環境部 琵琶湖政策課』。その内容について簡単に説明します。
普段から外来魚を釣り上げて回収BOXに入れてくれているような方たちに、滋賀県として何かできないかということで始まった『外来魚釣り上げ名人事業』。一年間で釣り上げた外来魚の量によって滋賀県から段位認定がされるというもの。
これで駆除された外来魚の量は、平成27年度で3.7トンもあったらしい!恐るべし滋賀県の釣り人!
こちらは、外来魚対策はまず子どもたちの意識を変えるところから。という考えのもと10年間続けられている『びわこルールキッズ』。期間中にたくさん釣った子どもには、知事からの表彰と、在来魚飼育セットが送られます。
ちなみに高田さんは琵琶湖政策課の審議会で委員もしておられていて、粟津さんともよく知る仲だそうです。
回収BOXについて
回収BOXは、琵琶湖の南湖に集中しているので、ここを2人で、彦根や米原の方は1人の回収嘱託員の方が回収しているらしい。
ロープで固定する必要がある『回収いけす』は、漁港などの限られた場所でしか設置できず、特に釣り人が多い南湖にはそのような場所が少ないのだそう。
滋賀県からのメッセージ
琵琶湖を戻す会の高田さん。琵琶湖環境部 琵琶湖政策課の粟津さん。二人が口をそろえておっしゃっていたのが、自分たちの力だけではどうにもならないということ。それだけ琵琶湖は大きく、この問題の根は深いのだと思います。
しかし、淀川にイタセンパラが戻ってきたように、もっともっと多くの人が協力すれば琵琶湖もいつの日か在来魚が帰ってくると思います。
僕たちも少しでもその力になりたい……
「ロカフレで釣り大会とか開いてみたいんですけど……」
というわけで、秋頃に、外来魚問題を知ってもらうことを目的とした『ロカフレ釣り大会 in琵琶湖』を本当に開催します!!
外来魚問題を知ってもらうことが目的なので、できるだけ多くの方に参加していただきたいです!
詳細は決まり次第、ロカフレ内とtwitterで報告させていただきます!
外来魚問題と生命の話
さて、ロカフレで釣り大会を開催することは決まりましたが、外来魚問題と生命の話はまだ自分の中でモヤモヤしたままです。
それなのに釣り大会はするのかよ、と言われてしまいそうですが、僕自身『外来魚駆除』に関しては賛成です。
子どもが回収ボックスに魚を投げ入れるところが……という話なので、大会までに自分なりの答えを出して、回収ボックスに代わる“何か”を用意しておこうと思います。
全て『回収いけす』にすれば僕のモヤモヤは晴れるかもしれませんが、現実問題としてそれは難しそうです。
釣りをしなけりゃいいじゃないか。ってのもなんだか野暮ですよね。
ルールを守りましょう。
命を大切にしましょう。
あなたが子どもに伝えるとき、どうしますか?
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