京都らしい素敵な門から失礼します。ロカフレ編集部のダイソン後藤です。
僕は京都生まれ京都育ちなのですが、最近はコロナの影響で街を歩いていても外国人の方を見かけることがほとんどなくなりました。
京都といえば外国人の行ってみたい観光地ランキングで常に上位で、一時期は人が多すぎるせいで観光に行きたくないと言われるほど、どこへ行っても外国人観光客でいっぱいでした。いわゆるオーバーツーリズムの問題すら抱えていた京都ですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための入国規制により、本当にパッタリと見かけなくなっています。
今からちょうど一年前、初めて緊急事態宣言が発令された2020年5月頃の本当に閑散とした時期に比べると、京都の街自体に人は戻ってきており、飲食店が閉店する20時以降の鴨川での酒盛りが社会問題となるほどですが、それでも外国人観光客だけは見かけません。入国規制をしているので当たり前といえば当たり前なのですが、京都という街は、それを当たり前という言葉で済ませられない現状にあります。
京都市は以前から、「京都は作られた観光都市ではない」と言ってきましたが、やはりインバウンドに支えられてきたことは間違いなく、外国人観光客がいなくなってしまったことによる打撃は計り知れないものがあります。
様々な観光産業がその打撃を受けていますが、ピックアップされるのは飲食店ばかり。休業補償についても、飲食店は手厚く受けられますが、京都の観光産業を支えていたのは決して飲食業だけではありません。観光と切っても切り離せないのが、宿泊施設ではないでしょうか。
今回はそんな宿泊施設の中でも比較的安価に泊まることができ、京都の観光産業の裾野を広げる役割も果たしているゲストハウスの今を取材してきました。
というわけで冒頭の写真に戻るのですが、平安神宮のすぐ近くにある、築100年以上の京都の町家を改修したゲストハウス、和楽庵さんにお邪魔しています。
和楽庵の女将さんで、昨年まで京都簡易宿所連盟の役員も務められていたルバキュエールさんにお話を伺いました。
写真撮影中にマスクをはずすシーンがありますが、検温を実施の上、原則マスクを着用して取材を行っております。
目次
1年間で600軒以上が廃業。京都のゲストハウスの現状
コロナ禍の影響を直接受けている京都のゲストハウス。横のつながりも多く、ご自身も2006年から約15年間にわたって和楽庵を切り盛りされているルバキュエールさんに、生の声を伺いました。
2020年の1月ごろ、まだ日本ではコロナウイルスの深刻さがそこまで広まっていなかった頃に、まず中国人観光客の予約が一斉にキャンセルになったのが始まりだったそうです。その時期には何とか持ちこたえていたものの、3月に入り世界的にパンデミックの宣言が出されると国籍を問わず外国人観光客の予約がキャンセルに。そして日本でも緊急事態宣言が発令され、いよいよ宿泊者がいなくなってしまった。
先ほども紹介したように和楽庵さんは、築100年以上の京町家を改修して作られたゲストハウスです。京町家の魅力がそのまま残っていて、京都市のど真ん中にあるとは思えないほど立派な中庭が本当に良い雰囲気なんです!この縁側に座ってビールでも飲めたら最高だろうな……。
やはり、外国人観光客がゼロになってしまったこの状況で、京都のゲストハウスは本当に苦しいようです。もちろん京都に限った話ではありませんし、ゲストハウスに限った状況でもないのは当然なのですが、昨年度(2020年度)だけで京都市の簡易宿泊施設は600軒以上が廃業になったそうです。
まだまだコロナ禍が収束するような様子も見えず、今年に入ってから廃業になった施設もいくつもあるとのこと。
2階の客室の押し入れ。木が曲がってきているのに合わせて襖を調整している。
月に110万円以上の格差。休業補償の出ない宿泊施設
600軒以上が廃業となった簡易宿泊施設ですが、その裏にはあまりにも格差がひどい補償金なども事情もあるようです。
ルバキュエールさんは冗談のように笑っておられましたが、今回の緊急事態宣言で飲食店には1日1店舗あたり4~10万円の休業補償が出ます。つまり飲食店は月に最低でも120万円の補償が出るのに対して宿泊施設は売り上げが50%以上減ったところには一時支援金として月に10万円が支払われるのみです。
あまりにも格差が大きく、同じだけコロナ禍の影響を受けているはずの飲食業と宿泊業とで月に110万円以上の差があるのは納得できるとは思えません。また、同じ飲食店でも、規模の小さいところは休業補償でむしろ得をする一方で、規模の大きな店舗は補償金があっても大きな赤字になったりと、完全に公平にするのは無理だとしても流石に雑すぎるのでは……と感じずにはいられません。
ゲストハウスはGo Toキャンペーンの恩恵も受けづらい
いまだに再開の目途が立たないGo Toキャンペーンですが、そもそもゲストハウスはGo Toの恩恵も受けづらいという現状があるようです。
Go Toキャンペーンは、宿泊費用の35%を国が補助してくれるという制度で、旅行者はお得に宿泊ができるというものですが、割引がパーセンテージなので、元が安い宿はあまり割引額が大きくならないという問題があります。
和楽庵さんは、現在はコロナウイルス感染拡大防止のため、ドミトリー(相部屋)は廃止しておられますが、通常ドミトリーは2,500円~。2名1室だと、1人3,000円~宿泊することができます。
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例えば3万円の宿に泊まると10,500円の割引になりますが、ゲストハウスのような2000円~3000円くらいで泊まれるところだと、1,000円程度しか割引されません。
そうすると、お得感を求めて少し価格帯の高い宿ほど人気が出て、ゲストハウスはあまり集客に影響がない。というのが実情だそうです。
Go Toキャンペーンがいつ再開されるのかはわかりませんが、もし再開するとしたら、全く同じやり方ではなく、これまで以上に全体に恩恵が行き届くような制度になってもらえればと思います。
ゲストハウスはどこも今はワンオペ
また、売り上げが落ち込んでしまったため、アルバイトや従業員を雇うことが難しく、多くのゲストハウスがワンオペ、一人での切り盛りになっているそうです。
雇用維持を目的として、国から事業主に雇用調整助成金が出るのですが、これを利用していると従業員は休ませなくてはいけなくて、予約がどんなに埋まっている状態でも基本的に一人ですべてやらざるを得ない状態なのだそうです。
おまけに感染予防のために業務は通常よりも増えています。取材中に宿泊者の方が外出されたのですが、そのときにすっとスリッパを除菌しておられました。他にも、部屋の掃除一つとってもコロナ前に比べてやることはかなり増えたそうです。
仮に国内で感染が収まったとしても、やはり京都など観光地のゲストハウスが完全に元に戻るためにはインバウンドの復活が欠かせません。そう考えると本当に何年も先を見据えて耐えていかなければならないのだな、と本当にしんどいのだと感じます。
今残っているのは、本当にゲストハウスが好きでやっている人ばかり
補償金も満足に出ず、Go Toのような恩恵も受けづらいという状況の中で、ルバキュエールさんは和楽庵を閉めようと思ったことはないのでしょうか。失礼かもしれませんが尋ねてみました。
現在は宿泊者どうしの交流はできる限り控えてもらっているそうですが、ここは宿泊者の共有スペースで、日本人、外国人問わず一緒にお酒を飲んだり談笑したりする場所です。宿泊者どうしで仲良くなって次の日には一緒に観光に行くようになったり、なんとここで出会って結婚した夫婦も何組かあるそうです。
そんな夫婦に子どもができて、写真が送られてくると、孫を見ているようで嬉しくなるのだとか。
2階へ続く階段も年季を感じる
どんなに苦しくてもゲストハウスをやめる、廃業するという考えにならないのは本当に好きだからの一心なのだと思います。周りでなんとか頑張っているゲストハウスの経営者も、同じ考えの人が多いのだそうです。
僕もこの空間がすっかり気に入っちゃったなぁ。空いている平日に泊まりにこよう。
まとめ
京都市は観光客が増えすぎて、宿泊施設が乱立し、一時期オーバーツーリズムという問題を抱えていました。しかし、コロナの影響によって観光客がいなくなり、そうした部分にいかに支えられていたのかということを再認識させられたような気がします。
そして、いつかこの世界的なコロナ禍が収束し、また以前のような日常を取り戻したとき、京都には観光客を受け入れるだけの態勢が整っていなければいけないと思います。そう考えたときに、昨年600軒以上の簡易宿泊所が廃業し、今年はそれ以上に廃業するのではないかというこの状況は、未来の京都にとって良いことではないのではないでしょうか。
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ゲストハウスは、京都の宿が高騰していく中で、お金のない学生や若者、また長期滞在する外国人観光客などを受け入れるためにも京都に必要な施設だと思います。これまでも京都の観光産業の裾野を広げる役割を果たしてきたのはこうした簡易宿泊所だったのではないでしょうか。
ルバキュエールさん自身もおっしゃっていたように、完全に公平な補償、支援、というのは難しく、現実的ではありません。しかし、現在の状況はあまりにも不公平なのではないか、あまりにも格差がひどいのではないか、と思えてなりません。
のれんもいいんだよなぁ
これは決して事業者たちだけの問題ではありません。補償金は我々の税金で賄われていますから、それがどう使われるのかというのは一人ひとりが考えるべき問題です。休めば休むだけ得をするという状況がある一方で、好きだからという一心で石にかじりついてでもなんとか店を守ろうとしている人たちもいます。
守るべきものが守られ、残すべきものが残り、いつか日常が戻ってきたときに、それが本当の日常であることを願っています。
(終わり)
ゲストハウス和楽庵
〒606-8392 京都府京都市左京区聖護院山王町19−2
TEL:075-771-5575
HP:京都 ゲストハウス 和楽庵 | 町家ゲストハウスで宿泊 (gh-project.com)