かつて私の住んでいた田舎は、
美しい山と川と海があり、
一見すると魅力的な土地にも見えました。
しかし実際に住んでみると、
「なんでこんな所に住んだんだろう・・」
と後悔する事になるかもしれません・・・・。
少なくとも私は、
そこで暮らし続けようとは思いませんでした。
当時、私の住んでいた田舎は
時代から孤立した「閉鎖空間」だったからです。
今は・・・・どうなっているのだろうか・・・・・。
まず田舎で思い出す事は・・・・そう・・・
あれは小学生の夏、
クラブ活動の帰り道、
私は同級生の数名とタバコ屋(兼駄菓子屋)でお菓子を買っていました。
買い物が終わると、
なぜか店のオバちゃんに
「ちょっとちょっと!」と私だけが呼び止められました。
なんだろう・・・?と不思議に思えば、
「団地の子と遊んじゃダメよ?」
なんて事をオバちゃんはコソコソと私に言うのです。
いつもニコニコ笑顔のオバちゃんが妙に真剣な表情で言うので、
「なんで?」とは聞き返せませんでした。
ちなみに、
その場に一緒にいた他の友人達は「団地住まいの子」
私だけが「一軒家」 に住んでいました。
オバちゃんの言う「団地」とは、
地元にある、何十棟もの団地が立ち並ぶ
「巨大なモンスター団地」の事です。
なぜ団地の子と遊んではいけないのか?
幼い私には「オバちゃんの真意」が全く理解出来ませんでした。
でもさすがに小学生の高学年になる頃には、
「団地の子と遊んじゃダメよ?」と言う言葉が、
田舎特有の「差別」なのだと、
そう理解するようになっていました・・・・。
幼いながらも私は、
そんな差別的なオバちゃんに嫌悪感を抱き、
好んでタバコ屋に足を運ばなくなりました。
しかしオバちゃんが「そんな事」を言った理由は、
中学に上がるとスグにわかりました。
私の通っていた田舎の中学校は、
モンスター団地の子を中心とした
田舎特有の「無法地帯」だったのです。
時代的なせいもあるのですが・・・
モンスター団地の子達は,
独自に「暴走族」を結成し、
毎日のように校庭をブンブンとバイクで走り回りました。
そのメンバー中には、
なぜか中学校をすでに卒業した生徒も多数います。笑
カツアゲや暴行は日常茶飯事。
それは授業中でも、
突然乱入してきて平然と行われます。
歯が欠ける程殴られても、
遊び半分で刃物で手足に切り傷を付けられても、
報復を恐れて、先生や親に言う子はおりませんでした。
縫わなかった傷口が、
パックリ開いたまま卒業を迎えた子もいました。
壊されるのは人間だけではありません。
校舎の窓ガラスもすぐに割られてしまうので、
まるで廃墟のような学校でした。
モチロンそんな不法行為を注意する
勇気のある先生も過去にいましたが・・・・
そんな先生は集団で暴行されてしまい、
見せしめに骨を折られて入院させられてしまいました。
そうなると、
彼らを注意する勇気がある先生は居なくなります。
学校の外には常にパトカーが待機しておりました。
しかし学校内では平然と無法行為が行われ続けます。
私が中学校3年生になる頃には、
彼ら不良達の間で最悪の遊びが流行だしました。
「放火」です。
毎日ではありませんが、
朝、学校に行くと定期的に
「何かが燃えている」のです。
だいたいトイレや廊下などで
給食袋のような布製品等がメラメラと燃やされていました。
その「放火現場」を見て、
生徒達はどんなリアクションをすると思いますか?
全くのノーリアクションです。
(なーんだまたか)そんな程度です。
毎日がバイオレンスだったので、
もう感覚がマヒしていたのかもしれません。
みんな放火を発見すると、
無言でパンパンと消して終わりです。
私も2度ほどトイレで消火活動に参加しましたが、
モチロン先生に報告したりはしません。
言えば、確実にヒドイ報復が待っているからです。
同じ時期に、学校周辺の建物でも、
チョットしたボヤ騒ぎが相次ぎました。
地理的、時期的に見ても、
同じく我が校の生徒の仕業とみて間違いないでしょう。
とは言え・・・・・
彼等も本当に「建物を全焼させてやろう!」
なんて気は無いのです。
ちょっとしたボヤを起こして楽しんでいるだけなのです。
ただ・・・火をコントロールするのは難しい。(たぶん)
結局、大きな火災を引き起こし、
地元のとある建物が半焼してしまいました。
この大きな火災について、私は詳しい。
実はその火事があった建物の中に私もいたからです・・・
まぁ・・・・・今回の話しには全く関係無いので、
その話はカットします。
こんな田舎のヒドイ事件をあげてたらキリが無いのですが・・・・
私が個人的に一番ショックを受けたのは「レイプ未遂事件」です。
なんと・・・・ある不良生徒が、
同級生の女の子をレイプしようと、
深夜に直接家に乗り込んだのです。
さすがに事件の詳細は伏せますが・・・
物音にご両親が気付いて、
どうにか無事に済んだそうです。
計画性もクソも無い。
彼はただ、本能のままに女子生徒に襲いかかったのです。
ケダモノ・・・いやまさにモンスターそのものでした。
そして残念な事に・・・・
その「凶悪なモンスター」は、
幼いころ私と一緒にタバコ屋でお菓子を買っていた団地の子でした。
その事件の話を耳にした時、
タバコ屋のオバちゃんが言っていた
「団地の子と遊んじゃダメよ?」
という言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返されました。
(なんだ・・結局オバちゃんが正しかったのか・・?)
なーんて・・とにかく・・・・
何故か無性に腹がたって仕方がありませんでした。
加害者も、
被害者も、
「二人とも」幼稚園の頃からの顔なじみなのです。
だからこそショックだったのです。
そういえば・・・・小学校に上がる頃、
私が公園で自転車に乗る練習をしていた時、
うまく乗れず、
バタン!と転んでわんわん泣いていると。
たまたま公園にいた「あの二人」が
「大丈夫?」と駆け寄ってきてくれた事がありました。
まぁ・・・たったそれだけの話しなのですが・・・
彼も、彼等も
最初からモンスターだったワケでは無いと思うのです。
では結局なぜ、
モンスター団地の子たちはそんなにも荒れてしまったのでしょうか?
家庭環境のせいでしょうか?
モンスター団地には、
地元出身の人間は、まず住んでいません。
ちょっとワケありな人達が、
田舎の工場に就職する為に県外から集まるのです。
海外から来る人も多くいました。
ゾロゾロと・・・・・・
いや、それとも
「団地の子と遊んではいけない」
と余所者を差別的な目で見る田舎の空気のせいだろうか?
いや・・・・
もっと根本的な部分に原因があるのかもしれません。
では「団地そのもの」のせいだろうか?
巨大な団地が立ち並ぶ特殊な密集地帯での集団生活が、
凶悪なモンスターを生み出していたのか?
まぁ答えは・・・・・私にはわかりません。
地元でボヤ騒ぎがある度に、
子供だった私は、
甚だ不謹慎ながら、
(燃えるなら、あの団地が燃えてしまえばよいのに・・・・)
とついつい思ってしまいました・・・。
(あの団地があるからみんなが不幸になる・・・)
本気でそう考えるようになっていたのです。
今ならどう考えるだろうか・・・・?
もし・・・自分がまだ地元にいて、
結婚して、
子供が生まれ、
近所の団地に「モンスター集団」がいる事がわかっていたら、
自分の子供になんて言っただろうか・・・?
「団地の子と遊んじゃダメだよ?」
もしかすると・・・・
子供に「そんな事」を言ってしまっていたかもしれません。
そう・・あの時の・・・タバコ屋のオバちゃんのように・・・・。
おしまい