慣れないネクタイ姿で失礼します。ダイソン後藤です。
こう見えて実は僕は教育大学を卒業していまして、小学校の教員免許と中学と高校の数学の教員免許を持っています。そういった関係上、大学時代の友人の半分以上は教員です。彼らは日々忙しく、twitterなどで投稿を見かけることは少ないのですが、先日TLが彼らの怒りや戸惑いのツイートで埋め尽くされるという珍しい事態が発生しました。
そう、政府から全国一斉臨時休校の要請があった日です。
これを受けて世間も大変な騒ぎとなりましたが、一番に影響を受けているのは子どもたちとその保護者、そして現役の教員たちではないでしょうか。
というわけで、現役で教員をしている友人たちに連絡をとり、全国一斉臨時休校に対する本音を聞いてきました。
目次
臨時休校で年休が消化できると思ったら……
小学校1年生の担任 Aさん
臨時休校は正直ありがたかったです。児童がいるときは基本的に毎日残業だったのですが、休校が始まってからは定時で帰れているので、自分の時間は増えましたね。ただ、休校が決まった時に、積極的に年休を消化していくように管理職から指示はあったのですが、毎日のように会議や研究会があるので、年休はとれそうにありません。
それから、うちの学校では共働きなどの理由で希望する家庭の児童を預かっているのですが、低学年だとクラスの半分くらいの児童が毎日学校に来ています。それは担任が教室で見ていなければならないので、私は結局教室にいる時間はほとんど変わりません。授業をしていないだけで半分以上の生徒が毎日学校に来ているクラスもあるので、意味があるのかな?と思うこともあります。
授業がないので、楽と言えば楽なのですが、クラスの児童全員が自宅で過ごしている高学年の担任の先生が職員室でゆっくりコーヒーを飲んでいる姿を見ると、不公平に感じる部分はあります。通勤のピークタイムを避けるために1時間遅らせて出勤しても良いとは言われているのですが、児童は8:30にやってくるので、低学年の先生たちはいつもと変わらない時間に出勤しています。
異動とわかっていても言えないままお別れに
中学校2年生の担任 陸上部顧問 Bさん
僕の場合は2年生の担任で、来年度以降もこの学校に残ることがほとんど決定しているから特に問題ないのですが、すでに内々に異動が決まっている先生の中には、かなり落ち込んでいる先生もいます。まだ正式に発表される前なので異動のことを生徒に伝えるわけにもいかず、次の登校日は4月なので、そのころにはその先生はこの学校にいないですからね。今のところ離任式も行われない予定なので、ちゃんとしたお別れが全くできない状況です。
僕の心配事はむしろ部活動で、去年は全国にもいっているのですが、今年はこのままではかなり厳しいと思います。公立中学なので、フィジカルに恵まれた生徒を集めらるわけではなく、練習を工夫して何とかやっている分、部活動ができないのは辛いですね。田舎の方の学校だと部活もやっているという噂も聞いて、そのあたりは不公平さを感じますね。
ただ、部活が禁止になって、久しぶりに土日がどちらも休みで、年休もとりやすいので、その点はありがたいですね。
生徒の登校は完全に禁止。配布物は親が受け取りに。
中学2年生の副担任 Cさん
うちの学校は電車やバスなどの公共交通機関を利用して通学する生徒が大半だということもあって、生徒は完全に登校禁止です。他の学校のように、自宅で待機することが困難な生徒を受け入れるということも一切やっていません。配布物なども、日時を指定して、まとめて保護者の方に受け取りに来ていただいています。どうしても来られないという場合は郵送していますね。
教員は基本的に平日は毎日出勤していますが、ピークタイムをずらすために1時間出勤を遅らせています。毎朝行っている職員会議も平常時は8:30からなのですが、今は9:30からなので、その時間に合わせて通勤していますね。管理職も積極的に年休を消化するように言っていて、実際に午後から休みをとったり、1時間遅く出勤している分、定時も遅くなるのですが、1時間だけ時間休をとって普段の定時で帰ったりしています。
卒業式が近いので今は少しバタバタしていますし、休みが春休みまでなのでそれ以降のことが不透明なのは困りますね。もう少しはっきり方針を示してもらえたらこちらとしても動きやすいのですが……。
実はほとんど影響はでていません。
高校3年生の担任 Dさん
実はほとんどと言ってもいいくらい影響が出ていないんです。僕の高校は臨時休校になる前に卒業式が終わっているので、担任をしていた生徒たちともきちんとお別れができています。就職だったり、専門学校や私立大学に進む生徒ばかりなので、クラス全員がすでに進路が決まっているのも大きいですね。同じ高校3年生の担任でも、国公立受験が多いところは、この時期の休校は影響が大きいんじゃないですかね。
平日は毎日会議があるにはありますが、全員での会議はほとんどありません。進路会議や部長会議といったように、そこに関わる人だけが参加するものなので、僕が参加するのは週に1~2回です。3年生の担任とは言っても、数学担当なので、本来はこの時期にも1,2年生の授業はあるのですが、それがなくなった分、教材研究にじっくり時間をかけられるのでありがたいです。もちろん休校に関する臨時の会議などは増えましたが、それを差し引いても自分の時間は増えましたね。
生徒たちが公園で練習しているのをこっそり黙認。
中学3年生の担任 テニス部顧問 Eさん
わたしは中学3年生の担任なので、やっぱり卒業式がどうなるのか、という不安が大きかったですね。とりあえず卒業式が無事におこなわれることがわかってホッとはしているのですが、生徒たちは寂しがっています。休校になったのが受験がおこなわれる寸前だったので、少しピリピリしたムードの残ったまま休校に入ってしまいました。生徒たちは全員の受験が終わって、和やかに過ごせる最後の1週間を楽しみにしていたみたいなのでそこは残念ですね。球技大会も中止になってしまいました。
生徒たちは基本的に登校禁止なのですが、卒業式関連で一部の生徒を呼ぶことはあります。例えば生徒会は卒業式で答辞を読むので、何度か学校に来ています。結局卒業式には在校生が参加しないことになったので、「答辞」ではなく「卒業生の言葉」に名前も変わりました。
部活動も全面禁止になってしまったので、生徒たちは公園に集まって練習をしています。それも部活のジャージを着ています。本当はそれを見つけると解散させないといけないので、見て見ぬふりをして黙認している状況です。やはり生徒たちは部活動をしたいのでしょうね。
予定されていた練習試合がすべて中止に。
中学3年生の副担任 野球部顧問 Fさん
僕の学校では、自宅で待機するのが難しい生徒に対しては、午前中に2時間だけ受け入れています。土曜学習と言って、土曜日の午前中に2時間ほど学習のサポートをすることがあるのですが、それと同じような感覚です。各クラス9人まで、席は離す、といった制限はありますが、登校してきているのは学校全体で十数人なので、今のところ問題は起こっていません。
僕は副担任をしているのですが、中学3年生ということもあって、担任の先生は最後までちゃんとして送り出してあげたかった、と寂しそうにしています。卒業式自体は行われますが、時間短縮や飛沫感染予防として「旅立ちの日に」の合唱がなくなったのも寂しいですね。みんなの歌を聞きたかったです。
それから、僕は野球部の顧問をしているのですが、部活動は全面禁止で、3月は毎週末練習試合の予定をびっしり組んでいたのがすべて中止になってしまいました。春休みに行われる予定だった大会は中止ではなく延期なのですが、このまま練習も練習試合もなく大会に出るのは不安がありますね。個人的にも冬があけて練習試合を楽しみにしていた分、この時期に部活ができないのは仕方ないのですが、やはり残念ですね。
成績不振の生徒には追認補習を。
高校1年生の担任 吹奏楽部顧問 Gさん
わたしの学校では、休校になったのが学年末考査の最中でした。全部で5日間の予定で、そのうち4日間は何とか実施できたのですが、最後の1日は実施できずに休校に入ることになりました。成績不振で最後の定期考査に懸けていた生徒もいたので、受けられなかった試験に関しては最大限の配慮はしていますが、それでも進級が難しい状況の生徒は特別に追認補習を行っています。なので、基本的には生徒は登校禁止ですが、成績不振の生徒は例外的に学校に呼び出して補習を行っています。
政府からの申請があったのが木曜日の夕方で、次の月曜日から臨時休校に、という話だったので、金曜日は朝6時から出勤して休校期間中の課題を大量に用意したり、定期考査もすぐ返せるように急いで採点しましたね。金曜日は朝から職場全体がバタバタしていました。結局月曜日は登校して火曜日から休校、という話になったのでそれはホッとしましたね。
吹奏楽部の顧問をしているのですが、卒業式に演奏する予定だったのが中止になったり、3月末に予定されていた定期演奏会が延期になったりと、影響は出ています。ただ、最近よく言われている働き方改革がなかなか進まない中で、意図せずに行われているような気もして、個人的にはいい感じです。もともとうちの学校は年休もとりやすい方ではあるのですが、部活があるとそういうわけにもいかないですし。今日も午前に補習をして、午後は成績処理を済ませてから、15時に帰りました。いい感じです。
子どもの大切な時期を逃してしまったかもしれない
幼稚園(二年保育)年少の担任 Hさん
政府からの休校要請は対象が小中高校だったと思うんですけど、うちの教育委員会は、幼稚園も他の小中高校と同様の臨時休校を決めています。なので基本的には園児の受け入れはしていません。しかし例外として、昨年の10月から始まった幼稚園の無償化に伴って設定された「新2号認定」という共働きのご家庭などの園児は預かり保育という形で預かっています。ただ、新2号認定のご家庭が必ずしも預かり保育を利用されているかというとそういうわけではなく、「基本的にはご家庭で」とお願いしていることもあって、うちのクラスでは2名ほどが利用しているという状況です。
預かり保育は、教育活動ではないので、基本的に担任が見るのではなくアルバイトの保育士さんに見てもらっていますね。わたしは園児がいないこの休園期間中に、これまでたまっていた膨大な仕事を終わらせていっています。事務仕事もたくさんありますし、これまで最低限の掃除しか手が回っていなかったので、今日は教室中のワックスがけを行いました。正直今回の休園がなかったらと思うとぞっとしますね。それくらい普段は自分の時間ってとれないんです。
ただ、そうしたほっとした気持ちの反面、子どもたちの大切な成長の時期を逃してしまったんじゃないかという不安もあります。うちは2年保育なのですが、冬が始まった頃から年長さんになるための準備を少しずつ進めていました。動物の飼育当番など、年長さんのお仕事を手伝ったり、遊びでも年長さんに混ぜてもらうことで少しずつ年長としての自覚も芽生え、すごく成長を感じていたんですね。まだまだ泣き虫な子ばかりですが、嫌なことにも立ち向かえるようになり始めていたんです。そんな大切な時期だったので、この休園が子どもたちに少しでも影響のないことを祈っています。
熱心に進めていた劇がなくなりガックリ
中学2年生の担任 Iさん
今回の休校は、複雑な気持ちです。まず一個人としては、うれしい気持ちが大きいですね。やっぱり自由に使える時間が増えたので、これまでやりたいやりたいと思ってなかなかできていなかったことをやっています。最近はExcelで関数を組んで仕事の効率化をすすめていて、今後の仕事が少し楽になると思います。
一方で、クラス担任としては、複雑な気持ちもあります。僕の学校では卒業式の前に3年生を送る会という在校生が卒業生に歌や劇などを披露して送り出すイベントがあるんです。厳粛な式典である卒業式とは違って、3年生を送る会はお祭りのようなもので、僕たちのクラスでは劇をやろうということになっていました。オリジナルで台本まで書いて準備していたのに、3年生を送る会自体が中止になってしまったので、せっかく準備した劇を披露する場がなくなってしまって生徒たちは残念がっています。もちろん僕もその劇を見たかったです。
普段に比べて楽なのは間違いないですし、たまにはこれくらいの休みがあってもいいのではないかとも思うのですが、時期が時期だけに複雑ですね。4月には新入生歓迎会も予定されているのですが、その準備期間がないので、そちらも規模の小さいものになってしまいそうです。僕たち教員は、毎年イベントがありますが、生徒にとっては人生でたった1度の卒業式や新入生歓迎会なので、それが今年だけ小さな規模になってしまうのは少しかわいそうに思います。
現場は混乱しているが、それは仕方がない
高校1年生の担任 Jさん
わたしの学校は、高校受験以外の教育活動は一切禁止になっています。卒業式や合格発表などは教育活動ではないので中止にはなりませんが、規模は縮小して行われます。テストも行われる前だったのですが、課題で成績処理を行うことになりました。明日生徒たちが課題を提出しに来る日なので、明日からは忙しくなりますが、今日は部署によって仕事がない先生もいるので、3割~4割ほどは休んでいましたね。こんなに職員室が静かなことはまずありません。
今回の休校要請はかなり突然でしたし、未だに卒業式がどうなるのか、新年度がどうなるのかなど、決定が二転三転しているのは正直困っています。ただ、これだけの事態は過去に例のないことですし、休校してもしなくても、どうやっても文句は出てくるので、ある程度仕方がないとは思います。
政府の要請に対して、各自治体で対応が異なるように、現場レベルでも判断の余地があるのは個人的に良かったと思っています。わたしの学校には最後の試験によって進級できるかどうかわからない生徒、かなり厳しい生徒などがいますが、今回の休校で影響が出すぎないように現場が調整しなければいけません。本来進級できたはずの生徒ができないのもダメですし、本来進級できなかった生徒が、今回の休校で棚ぼた的に努力なしで進級できてしまうことも避けるべきだと思っています。
忙しい日々が恋しい
小学3年生の担任 Kさん
わたしの市では児童の受け入れは一切していません。隣の市は各学年ごとに1時間ずつ受け入れをしているようなので、児童の受け入れに関しては教育委員会ごとではなく、市町村ごとに裁量があるようです。
休校期間中は17時に退勤できているので、毎日のように残業していた頃に比べると勤務時間は短くなっているはずなのですが、1日がとても長く感じます。朝からずっとデスクワークをしていると腰も痛くなってくるし、15時ごろからどうしても眠たくなってくるんですよね。児童がいて忙しく走り回っていた時は眠たくなる暇もなかったんですけど……。昼食も外食が禁止されているので毎日お弁当で、息抜きができる時間がほとんどないのが辛いです。忙しい日々が恋しいですね。
それから子どもたちに会えないのも寂しいですね。単元が丸々できていないまま新学期を迎えることになるのもとても心配です。例えば国語だと、モチモチの木という4年生につながる大切な部分ができていません。来年度は学力調査もありますし、本当はその練習や、既習事項の復習もやっておきたかったんですけど……。それからあるご家庭から伺ったのですが、子どもが家でゲームばかりしているそうです。学校がないことで生活リズムが崩れてしまわないか不安です。
まとめ
幼稚園の先生から高校の先生まで、11人の現役教員に生の声を聴いてみました。いろいろなところで目にするような批判ばかりではなく、寂しさと嬉しさが入り混じった複雑な感情を抱いている人たちが多いようです。
彼らと話をしていて、全員に共通して出てきたのが「自分の時間が増えたことは嬉しい」という言葉です。それほど、学校の先生たちは日々の業務に忙殺されていることが伺えました。これを機に少しでも働き方改革が進んでいけば、これだけ世間を騒がせた一連の騒動にも価値が生まれるのではないでしょうか。
今回の全国一斉臨時休校が正しかったのかどうかは、今すぐに判断することはできません。しかし、少しでも子どもたちとその保護者、そして学校の先生たちにとって悪い影響のでないよう祈るばかりです。
(イラスト協力:Aさん)