【ネタバレ】浮気性だったヴァレリアンのプロポーズを、なぜローレリーヌは受け入れることができたのか

まず始めに伝えておきたいのが、この記事が本気の考察だということだ。というか、長い。

映画「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」を見ていない人にとっては何のこっちゃ分からないだろうと思うくらいに配慮すらしていない。そういう前提のもと読んでほしい。基本的には、一度この映画を見た人と共有したいことを書く。

 

さて、恋人を何人も変えるものの、けして落ち着かないヴァレリアンが主人公となる映画、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』。

映画の冒頭では、宇宙ステーションで待ち受ける宇宙飛行士たちの元へ、地球から乗り込んでくる宇宙飛行士との”笑顔で握手”の対面シーンが1975年を起点に2020年・2031年と続く。

 

そして2150年には、宇宙開拓は平和と安定の元に築かれてきたのだと窺わせるBGMと共に、大きく変貌したアルファ宇宙ステーションの外観が映され、そこにやって来る様々な来訪者も今までのような人類だけに留まらず、地球とは逆の方角から、異形の船が訪れ、乗船していた異星人がステーションに乗り込んできては異種の対面シーンが流されるという、惑星外の存在とのコンタクト&交流に成功した様を見せつけていく。

その後、軌道上で質量の限界に達したアルファ宇宙ステーションは、地球の重力圏外に放出されることとなり、平和と結束のメッセージを宇宙の果てへ届けるというスローガンのもと、針路はマゼラン・カレントという未知へと旅立つ。

本編はそれから400年後の未来だ。

 

『惑星ミュール QN34座』では、虹色に輝く真珠を採取することで暮らしを営む先住民のパール人が、突如降ってきた異星人の艦隊に、その後の未来が翻弄されていく。

まず皇帝ハバンの娘のプリンセス・リホが逃げ遅れて、大爆発に巻き込まれて亡くなるが、リホの解放された意識・波動が遠く離れた本編の主人公ヴァレリアン少佐の元へと到達するや、物語の中心はビーチに居た彼に移行する。

 

この映画は悲劇に見舞われたパール人が、平和と安定を取り戻すまでが要となる。

 

記憶テストで満点をとる割には、仕事でパートナーを組むローレリーヌの誕生日を忘れるなど、どこか抜けている男ヴァレリアン少佐。

彼女に自画自賛で自分を売り込むヴァレリアンですが、今までに付き合ってきた女性も驚くほど多く、その数はさすがに多すぎる!とツッコミを入れたくなる歴代彼女の映像が”オトした相手リスト”として画面一面に出される様は、ある種、圧巻。

 

「俺の心は君だけのもの」と迫る押しの強いヴァレリアンに対して、「過去を清算しない男とは付き合わない」と返すローレリーヌ。

冷たい言葉にもめげず、「完璧な子を探してるから」「犯罪じゃない」と迫り続ける彼の言葉にも、「いつまでもずっと探す」と彼女は返すのみで、責任を持つのが怖いことを認めるべきと言い返して、自信家である彼の想いをシャットアウトする。

 

“変換器”回収。2人の現状の関係と性格について

連邦捜査官の任務に就いて9年目のヴァレリアン少佐は、相棒のローレリーヌ軍曹と共に、新たな”極秘任務”を命じられる。

連邦から盗まれたという、その種の最後の生き残りの”変換器”の回収に向け、小型船イントルーダーに乗って『惑星キリアン JR24座』に乗り込んだ2人は、観光客を装って容疑者を追うことになった。

 

ただ任務中でありながらも、2人の恋愛の駆け引きは続行し、ヴァレリアンは彼女にいきなりプロポーズをする始末。

「笑えない」と失笑するローレリーヌだったが、冒頭からヴァレリアンを軽くあしらい、冷淡に見える割には、彼の頬にキスするなど、なんだかんだと、やっぱり好きなのかなとは思わせられる行動を取る女性だ。

 

バタバタと任務に奔走する2人の掛け合い漫才のようなコミカルな会話と場面の展開は小気味よく、この映画の真骨頂とも言えるのではないか。

責務ある仕事を2人で組んで遂行できる以上は、結婚しても上手くいくように思えるが、一旦離れると、相性からして離婚ともなりかねない危機感を抱かせる。

 

先にヴァレリアンが潜入したビッグ・マーケットは、100万軒近い店がひしめく”異次元の世界”。

ヘルメット無しじゃ何も見えず、手袋無しだと何も触れない、そんな巨大市場でショッピングを楽しむ人々の群れに単独で紛れこむ。

 

ほどなくして容疑者の店を発見すると、容疑者アイゴン・サイラスは、パール人の皇帝ハバンの息子ツウリと、目当ての”変換器”を巡って取引の真っ最中だった。

“変換器”と引き換えにツウリが用意したのは彼らがミュールで採取していた”真珠”。ただ、間に割って入ったヴァレリアンとローレリーヌによって、”変換器”はスピード回収されることに。

 

“変換器”は、一瞬であらゆるものを複製する。

それこそ、貴金属ですらも大量に、だ。

 

同時に手に入れた”真珠”は、アレックスの分析では、ヴァレリアンが乗船しているイントルーダーの10倍のパワーとなる20メガトンが入っているという。

採取できるのは、30年前に消滅した『惑星ミュール QN34座』で、豊富な植物に原始的な種が生息し、その他は特別な点はない。夢で見た女(プリンセス・リホ)がよく似た真珠をしていた。

 

とにかくも”変換器”の回収に成功した2人は、残りの”極秘”の任務を済ませようと、目的地である『アルファ(千の惑星の都)』を目指し、イントルーダーで移動した。

「10日間の休暇をもらって宇宙一のビーチに連れていく」と、今度は異次元ではなく本物だと約束するヴァレリアンは、苦笑するローレリーヌとの他愛ない会話を続けながら、これが船かと見紛うほどのスケールの大きさを持つアルファからの指示で、『イントルーダーXB982』はVIP待遇の第1区に係留する。

 

ヴァレリアンを助け出すまで。ローレリーヌのヴァレリアンへの想い自覚と、奮闘

アルファ宇宙ステーションは、地球の軌道を離れて以来、7億マイル近くを旅して、幾つもの種族が住み暮らす大所帯の居場所として成長した。人口は約3000万人。

900万の人間タイプを含めて、宇宙全域から集まった3236種族が暮らし、知識と文化を蓄積する。

 

遅刻した2人を出迎えたのは、「最悪に備えれば失望もしない。お互いに」と、背中越しに口にする将軍だった。

ローレリーヌが、嫌ぁな顔をヴァレリアンに向ける。

 

将軍の説明によると、1年前、アルファ宇宙ステーションの中心部に高放射線ゾーンが発見されたという。

どんな信号も通さず、探査機を送っても戻らない。

 

特殊部隊を派遣するが、脅威の実態を突き止めることができなかった挙げ句に生存者もなしという結果で終わった。

思い当たる敵はないが、呼吸できないほどに汚染された空気と脅威は、取り除かねば1週間でアルファを滅ぼすという。

 

宇宙のほぼ全種族が住み暮らすアルファを誰が滅ぼすというのか? とのヴァレリアンの問いに、司令官は「これは大量破壊兵器だ」と前置きし、「黒幕が誰であろうと、皆への脅威を排除せねば」と強硬姿勢を崩さない。

直後に開催された安全保障理事会では、招集した『人間連盟』が、集った様々な種族の代表者たちに向けて、アルファ宇宙ステーションの中心部にはびこる脅威のことを報告し、その司令官の傍には、ヴァレリアンのみが彼の警護にあたった。

 

安全の為に”変換器”を預かるローレリーヌには待機を命じ、彼女は「最悪だわ」と愚痴をこぼすほどの輩『ドーガン=ダギーズ』と接触する羽目に。

だが、後々、ヴァレリアン救出には一役買ってくれることになる。

 

直後、B区で警報が鳴り出すと、約10名の傭兵…武装したパール人たちが襲撃に来て、傷一つつけられはしなかったものの、傭兵たちが手にした武器の発射により、その場にいた全員が動きを封じられて倒された。

そして司令官のみ、パール人たちに連れ去られていってしまう。

 

その後、ヴァレリアンが単独で司令官を奪回すべく、パール人たちの跡を、最短(“北北東113度”)の道で追うが…。

 

ここのシーンは見ものだ。

ヘルメットを装着したヴァレリアンが、壁に向かって突進し、強引に突き破って、そのまま走って突き進む。目の前に現れるどんな障害も物ともせず振り払い、真っ直ぐ最短の道を走り続ける様はパワフルで、SFとファンタジーの見事な融合を感じさせられた。

 

ガラスを突き破り、外に落下するも、空間に撃ち放ったバリアに着地して、そのまま飛び石のごとくバリアを作り出しては前進する。

水中が現れてもなんのその。

 

足裏からエネルギーを放出してスイスイと水をかきわけて前を行く。

その道は、確かに最短の道だった。

 

だが、スカイジェットに乗船したヴァレリアンはローレリーヌの誘導でパール人たちを追跡するが、その船を捕獲できぬままに通信不能のレッドゾーンに突入し、制御不能でスカイジェットと共に消えてしまう。

ローレリーヌは将軍たちの制止を振り切り、急遽ヴァレリアン救出に向かう為、ドーガン=ダギーズと取引をする。彼らが提供した情報は、ガラナ海の『ブロモザウルス』に棲み着く『皮質(コーテックス)クラゲ』を捕獲し、頭に肩までかぶり、浸透作用で会話して、ヴァレリアンの居所を知ることだった。

 

「ヴァレリアンを教えれば、こいつの見たものが分かる」と説明するドーガン=ダギーズに促されて、ローレリーヌはクラゲを頭からかぶって、ヴァレリアン捜索に乗り出すが、「タイムリミットはたったの「1分だ」「食われるから」「記憶を」と怖いことを忠告されて、ローレリーヌは「素敵ね」と目を見開いた。

ドーガン=ダギーズにストップウォッチで計測された結果は、1分10秒の新記録。

 

成果は、『L.630.E』の標識。

倒れているヴァレリアンの姿と重なるように、地名なのか、手がかりとなる居場所の標識を発見したローレリーヌは、ドーガン=ダギーズの知識によって、『L 630 E SUL 作動停止』の場所まで単独でヴァレリアン救出に向かった。

 

ここら辺の度胸と状況判断による分析能力、加えて決断力・実行力の備わったローレリーヌ捜査官の実力は、キレやすい性格は横に置いておいて、かなりのものだろう。

そして、発見できたヴァレリアンを救急キットで介抱し、彼の意識は目覚める訳だが、彼女が救出に向かわなければ、事態の改善が見込めたかどうかは分からない。

 

ただ残念なのが、彼の意識が司令官を追うことばかりに執着していたということ。

自身の体調を省みない挙げ句に、救出に来た彼女への感謝の想いが足りなかったことが、彼女の不満を煽った。恋愛への意識にズレが生じていることが、今一歩、ヴァレリアンを受け入れられないのかもしれない。

彼よりもクールだと印象づけさせられたローレリーヌは、ラストの決断によって、こと恋愛に関しては逆なのだなと、そう感じさせられたからだ。

 

ローレリーヌを助け出すまで。ヴァレリアンとバブルの死

スカイジェットの修理に追われるヴァレリアンの傍で、ローレリーヌは崖の方へと歩き、そこに居たイグアナに似た獰猛そうな小動物を一蹴りして散らすと、宙を舞う、電光色の不思議な蝶に気付いて、手を伸ばした。

「きれいな蝶ね」と右手の甲に留まった蝶に見惚れるローレリーヌに、「でも触るなよ」と警告するヴァレリアン。

 

「そいつらは…」彼が言いかけた次の瞬間、蝶に捕縛されたのか、そのまま引き上げられるようにして、ローレリーヌは宙へと連れ去られてしまった。

その蝶は、変わった種族の釣り竿につけられた、いわば『エサ』だった。釣果となったローレーヌは、大きなカゴに閉じ込められ、”天国横丁”へと連れ去られていく。

 

今度は彼女を救出しなければならなくなったヴァレリアンは、アレックスの案で、グラモポッドを探しに行くことになった。

そうして、『グラム・クラブ』でダンスを披露する『バブル』と出会う。

 

このグラモポッドとの出会いがなければ、ローレリーヌは助からなかったかもしれない。

 

「4歳からやってて、あちこちの学校で習った。誰でも何でも演じられる」と自負するバブルに、「バブル、相棒捜しを手伝えば自由にする」と、ヴァレリアンは条件を出した。

「故郷を離れた不法移民の自由って何?」と静かに問いかけてくるバブルに、「俺は政府職員だ、IDを取ってやる」とヴァレリアンは約束した。

 

躊躇うバブルに、「どうする?バブル」と微笑むヴァレリアン。

捜査官という立場ながら、周りを朗らかにさせる優しい笑みは彼特有の長所だろう。

 

「私のダンス、気に入った?」とまた問いかけてくるバブルに、ヴァレリアンは「最高だった」と返答すると、彼女は嬉しそうに微笑み、「ありがとう」と伝えた。

それに対して、「どういたしまして」と応え、また笑顔を顔に刻むヴァレリアンがいて…、ローレリーヌのライバル登場かもと思わせられた。

 

店から抜け出す為、二人羽織のようにヴァレリアンに覆いかぶさっていたバブルは、ジョリーになりすました変身をとくと、彼から下りて身だしなみを整えた。

この変身の能力が、グラモポッド特有の才能だ。”天国横丁”に辿り着くと、「ブーラン・バソールは演じたことない」と嫌がるバブルに、ヴァレリアンが「アーティストだろ?」と食い下がり、彼の背中に覆いかぶらせ、ローレリーヌを連れ去った種族『ブーラン・バソール』に変身して、救出作戦を遂行する。

 

ただ、奇妙なコンビが誕生して、観ている分には楽しい展開となったが、不法移民には手厳しいお国柄なのか、製作者の他の意図を探る視聴者もいるかとは思うが、名前が示唆する通り、バブルはこの先長くはない。

ローレリーヌの救出に成功はするものの、お似合いの2人をかばって、バブルは攻撃を受け、命を落とす。

 

ヴァレリアンで唯一腑に落ちない欠点を挙げるとするならば、サブキャラとして受け入れたバブルを、こんなに無意味に失わせたことではないだろうか。

なんの為に登場させたのかが、異国民には理解しずらい。

 

なんでも器用に生き抜くバブルの存在とは、この映画の中での彼女の役割とは、一体なんだったのか?

同じく、器用さに長けた人々の行き着く不幸せで理不尽な末路への警告か、それとも見下しだったのか。

 

不法移民とは、幸せにはなりづらい、不安定な立場なんだ、と言われているように思えた。

国を追われて出てきた幸薄い人々には、いざ目の前に幸運が舞い込んでも、すぐに幸せは底を尽くか、逆に不幸への階段を下り落ちると…。

 

突如降ってきたIDの話と、自分のダンスを高く評価してくれたヴァレリアンの存在と、幸せが一度に2つも舞い込んだ。

そんなバブルは、本当にバブルが弾けてしまったかのように、命を使い果たし、遺体は綺麗に砂と化して崩れ落ちた。

 

バブルなんて、弾けりゃ終わる。あのような階層は、もう来ない。

そういう想いで名付け、オレたちを鼓舞し続けて、役目を終えて人生を去っていく存在だと、人々に植え付けたかったのだろうか。

だから、すぐに亡くなる人々だから、姿も異形の…宇宙人のようなタコの姿にしたのだろうか。

 

コケにされてるキャラクターでムッとはするのだが、この映画に登場させた製作者の意図が、気にはなった。

それでもオレたちは幸せになりたいし、彼女と同じ方向を向いて、共に戦い、生き抜いていってやるんだという意思が伝わってはきたが…、1回目を見終わった時点ではなんとも後味が悪く、一石を投じられた映画であり、IDを条件に巻き込まれたバブルには、残念さが募った。

 

アーティストとしてのバブルは、いつもなら、ブーラン・バソールには近寄らなかっただろうし、そもそも戦場とは無縁の暮らしで居たかっただろう。

人よりも愛があるからだ。愛のない戦場では、真っ先にやられかねない。

 

戦いに向かず、ヴァレリアンの銃に酷く怯えた彼女が、戦闘意識を剥き出しにして、強い自分を振る舞い、最後まで貫いた。

それは親心にも似ていたが、自分を認めて評価してくれたヴァレリアンに、愛情が湧いたせいかもしれない。

 

愛をくれたヴァレリアンと、彼が愛するローレリーヌのために、人肌脱いだ形となり、それが原因で、命を落とすことになった。

 

ヴァレリアンがバブルのダンスを高く称賛したことで、彼女は酷く心安らいだに違いない。

まるで、その想いを彼に返すかのごとく、2人の関係と、その前途を祝福する彼女の生き様は、愛をくれた人には、愛を返してあげたい、という黄金率の存在を受け継ぐ人なのだということを感じさせられた。

 

これで、その人生は幕を閉じはしたけれど、バブルの魂は、未練を残さず、次のステージへと旅立っていけるのだろうと、そう思えることができるのかもしれない。

 

パール人との話し合い。脱出まで

アルファ宇宙ステーションの中心部に向かったヴァレリアンとローレリーヌは、そこは危険区域などではなく、呼吸もできるし、汚染の兆候はなさそうだということから、初めから偽情報が仕組まれていたのだと知る。

そして、おそらく司令官は敵の正体を知っているのだと。

 

後になって、将軍と大尉の側にも、第1部隊の兵士が設置した器具により、アルファ中心部には、汚染や放射線はなく、報告書が嘘であったことが判明する。

部隊は1人として帰還しなかった、という事実すらも、最初からなかったのだとしたら、ヴァレリアンたちが思ったように、作られた情報だったということになる。

 

また、パール人の捕虜を、司令官の指示により拷問していたと供述する司令官直属の医師を、すでに逮捕している。

亡くなったパール人について、DNAサーチを試してもデータベースの8億種とは合致しなかったことから、将軍側は、未知の種族か、または…誰かがデータベースから削除したかもしれないと推測していた。

 

その後、データへのアクセス権が認められて、”南部地域との紛争”、”アジエン・コーンとの戦争で、惑星ミュールは壊滅”したとの情報を得た。

しかも、惑星は無人だったとのデータが残るが、次の「作戦の指揮官は?」という質問には、”アクセス拒否”されてしまい、不審が募った。

 

この一連のことから、データへのアクセスを拒否していた司令官は、是が非でも、パール人を脅威と認定して、過去の過ちの記録と共に滅ぼしたかったのだろうと推測できた。

それにしても、パール人を拷問していたことが発覚した司令官は、今度は逆に、パール人たちに拉致されてしまったわけだ。

 

パール人の皇帝ハバン=リマイの息子ツウリと対面した2人は、彼らの陣地に迎え入れられるが、将軍への連絡を頼むと伝えたのに、ローレリーヌが今回は、たまにはあなたが連絡すれば?と、その命令を拒否した。

1人でさっさと先に乗り込んでいったものだから、彼女の背中を見送ったヴァレリアンは、「信じられない」とつい本音が口からもれるのだが、妙な違和感があった。ここでそのセリフを使うのは多少無理があると。

 

本編の英語のセリフと通訳した字幕の解釈がミスマッチだったのかもしれないが、そう思わせられたのは、この一言だけだと理解しにくかったからだということが原因だろう。

「君のレベルじゃ信じて待っていられない」とか、「俺の命令を無視するのか? 信じられない!」とか、もう少し言い回しを練った方が良かっただろう。

 

この後、ベールの向こう側では、ローレリーヌを”信じる”ことになるからか、伏線のセリフだったのだろうとは思うが、大事なセリフだと思ったので、ここを理解するのに苦しんだ自分がいたことに、脱力した。

もう一言補助する言葉が付加されていたならば、ヴァレリアンは必ずしも本当に完璧な子を求めていた訳ではなかったのだと推測できるので、もっと早く理解が進んだだろう。

 

要は、自分とのフィーリングが完璧な子を求めていたのだろうと。

自分がさらに男としてプライドを向上させられる相手を捜し求めていたのだろうと、そう思えるからだ。

 

ヴァレリアンのプライドは、相手がローレリーヌで、良くも悪くもへし折られただろうか。

ラストの決断で、彼女を信用するヴァレリアンだが、果たして彼女は”完璧な子”だっただろうか。

 

パール人の生き残りたちが住み暮らす船の中にやって来た異種族のヴァレリアンとローレリーヌを迎えたツウリは、父親の皇帝ハバンと彼に寄り添う妻のアロイを紹介した。

 

2人はプリンセス・リホの両親だった。

帰らは、息子のツウリが、ヴァレリアンの中に妹リホの存在を感じたのだということを説明した。つまり、リホはヴァレリアンを選んだのだと。

 

死の瞬間、パール人は体内の全エネルギーを解放する。それは波動となり、時空を超え、時に好ましい相手を見つける。

リホはヴァレリアンを、”魂の守護者”として選んだ。そうして、時を超え、再び両親と娘の魂はヴァレリアンを通して再開した。

 

「あなたに会えて、とても幸せ」とアロイがヴァレリアンの顔に触れ、我が娘の存在を感じて言う。

「俺もだ。つまり彼女も」とヴァレリアン。

 

そしてハバンは、真珠の採取で成り立つ暮らしを何世紀も営む、楽園だった惑星ミュールは、他の星の者たち同士が繰り広げていた戦争の巻き添えをくって、破滅の日を迎えたこと、核融合ミサイルを発射され、敵が惑星に落ち、プリンセス・リホは、他の600万人と共に死んだことを、ヴァレリアンたちに伝えた。

ミュールの爆発後は、何年も宇宙を漂い、船を瓦礫から回収して乗り込み、時間がかかったが、残っていたデータベースから数学や物理学などの学問・知識を吸収し、宇宙には他にも様々な種族がいること、自分たちの星を滅ぼした人間たちのことも学んだと。

 

「時が悲しみを消すことはなかった。だが人間への怒りを捨て去ることはできた」

ある日、銀河を巡るスクラップ業者に拾われ、アルファ(“千の惑星の都”)へと辿り着いたパール人は、学んだ技術と手に入れた資材で自分たちの船を造り、失われた故郷を複製したが、”変換器”と”真珠”の2つだけが足りなかった。

司令官を拉致したのは、この”変換器”を持っていると思い込んだせいだろう。

 

妻アロイによって目覚めさせられた司令官は、「どうすればよかった? 仕方なかった!」と逆ギレする始末で、ヴァレリアンが彼を殴り倒して、一件落着にする顛末に。

 

「我々は生き残った過去の証人だ。人間たちはその過去を葬り、忘れようとしてる。許すことはできても、忘れようがない」

司令官は、最初はミュールは無人だったと言いはったが、その場に居合わせたのに、生命反応を見落としたのかと問いただされ、彼らパール人を犠牲にしたこと、サムク少佐が持っていた証拠を彼ごと始末したこと、アルファの中心部に生存者がいる証拠を消そうとしたことを認めた。

“真珠”を返しはするが、政府の財産で、宇宙で最後の1つである”変換器”を返すことまでは、ヴァレリアンは認められず、捜査官としての道をおもいきって踏み外すローレリーヌを制止した。

司令官と同じで他人の財産を自分の物にするのかと、「今、ミスを正せるのは私たちだけ」なのにと、目に涙を浮かべそうなほどに、哀しげに憂えるローレリーヌ。

 

対して、兵士は規則に従い、忠誠を守る、渡す権限はない、決めるのは法廷だと言い張るヴァレリアン。

ここまでなら、ヴァレリアンに優位性があるのだが、「ほらね、だから結婚は嫌。愛を分かってない」とローレリーヌは仕事上のことに結婚感を引き合いに出し、事態を複雑にした。

 

「愛とは関係ない」と正論を吐くヴァレリアンに、「そこが間違いよ。愛は何よりも強いの、ヴァレリアン。規則や法律も破れるし、どんな軍や政府も圧倒する」と、ローレリーヌは力説した。

「私を信じて欲しいだけ」と本音をぶちまけるローレリーヌに、「君のためなら死ねる」と熱く言い切ってしまったヴァレリアンは、かなり逡巡した後、「分かった、渡してやれ」と、ローレリーヌにゴーサインを出してしまった。

 

愛は盲目…。ここで、そう思ってしまう視聴者なら、もうお分かりだろう。

ローレリーヌは、軍や政府、法廷よりも、自分を信じてと、そのようにヴァレリアンに強制したのだ。結婚の条件にしたのだ。

 

ここら辺の駆け引きは、パール人や、”変換器”、正義や寛大さなどといったものというよりは、もう、ただの恋愛感情でしかないのではないか、とすら思える。

軍(仕事)と私、どっちを取るの? …そう言われた彼氏の心境と、まったく同じではないだろうか。次元が違うのは確かだろうが、とどのつまりは、その系統のマクロ版だったかと思える。

 

穿った見方をするならば、君のためなら死ねるとまで豪語した手前、是が日でも、ヴァレリアンはローレリーヌを妻にしたい…手に入れたいのだろう。

仕事への忠誠心ならば、名誉勲章をすでに7つ手に入れた時点で、周囲にも認められている訳だし。

 

男女間の愛と、任務に忠実なのとは、また違う。

別の言い方をすれば、政府に対する忠誠心が足りなかった、ということになる訳だから、ヴァレリアンの捜査官としての経歴に1つ、傷がついた、という風にも解釈できるだろう。

 

ローレリーヌへの愛は、彼の規則に従う兵士としての能力を減退させたことになる。彼女は果たして下げマンだったのだろうか?

今後、連邦からどのような手を回されるかは分かったものじゃない。司令官の二の舞というか…、彼の連邦への忠誠心から犯したとされる罪を、ヴァレリアンたちは”愛”というものの為に犯した罪で引き継いだだけのもののようにも見受けられる。

 

ローレリーヌが説得に利用した”愛”とは、そのようなものではなかっただろうか。

ただ、連邦に理解があれば、2人の犯した罪は、咎められずに済むだろう。令官の犯した罪を罪と連邦が判断するならば、だが。どちらの罪も、連邦にとっては脅威だと判断されたなら、2人の未来は潰されかねない。

 

政府の財産(“変換器”)を横領するとは、結局はそういうものなのだから、いずれ負を受けるだろう。

連邦から受けた負を、パール人から取り戻したようなものなのだから。その負は、一体どこに向かうのだろうか、どこで落ち着くだろうか、実際に関わった者たちの間で転がして良い負として、連邦から2人はコケにされかねない。

 

その後ラストまでの簡略的な展開は、2人の逃避行のように思えてしまうのも、道理なのかもしれない。

ヴァレリアンは、”愛”は得られただろうが、その”愛”は、連邦から忠誠心に欠けるとの評価を下された一兵士として生きることになる以上は、プライドの減退を持ち続ける限りは、いつまで…どこまで得られ続けるものなのだろうか、はなはだ疑問に思えるのだ。

 

ましてや、浮気性だった男として見られている。

一時的に得られた”愛”として、今後は片付けられない、そのような関係だったのかもしれないと、ラストには思わせられた。

 

なぜなら、2人はパール人じゃない。

彼らと行動を共にして生きることを決断した訳ではなく、人類の仲間として、今後も生き続けるからだ。果たしてヴァレリアンたちは、その後、無事にゴールインできたのだろうかともすら思えなくもなかった。

 

“変換器”は真珠を大量に複製し、またパール人たちに、念願だった自然の恵みである『真珠』が戻ってきて、彼らはホッと安堵した。

真珠のエネルギーは機械を通して船全体に行き渡り、四方が無機質の船内から、空のある自然へと変貌する。惑星ミュールを人工的にではあるが、取り戻せたことに、パール人たちは身を寄せ合って目を閉じ、静かに喜び、そうして、手順に従う将軍が指揮する連邦軍に追われるまま、パール人たちはアルファを脱出することになった

 

「手順なんて嫌い」

そう言い切るのが、ローレリーヌだ。

 

映画冒頭の彼女の才女面とは一線を画すので、キャラ設定の矛盾に割と驚くが、この事態に陥ってから嫌いになってブチキレたのか…。

ただ、敵意のないパール人たちと、2人の優秀な捜査官の説得により、生存者を抹殺するための作戦だったことが明るみにされていくにつれ、将軍側も戦闘を中止する気配が漂う。

 

だが、その後、落ち目となった司令官の指示によってK-トロン(ロボット部隊)が作動し、他の仲間の兵士たちや将軍たちですら、K-トロンは攻撃し始めた。

「私は兵士だ。兵士は常に辱めよりも死を選ぶ。殲滅せよ」との司令官の命令に、K-トロンは忠実に従い、周辺に張り巡らされた爆破バタンに再びスイッチが入ってしまった。

将軍の指示により、なんとか大尉が爆破を中止するが、生き残った司令官の立場は、良くなるとは思えなかった。

原始的なマイノリティー種族の側に立つと、いかに自分たちの方が優れているかということを明確に訴えるためには、綺羅びやかに暮らすことで、そちらの方がより魅力的だと伝わる内容にすべきだったことがよく分かる。

未開民族を登場させる点では、アバターなどもその一種だろうし、大国の軍の規律に傾きすぎる人類に、ある種の警鐘を鳴らしたかったのだろう。

 

ヴァレリアンたちの目の前に、念願だったビーチが広がった。ミュールの浜辺は、とても綺麗だった。

生きる道筋が違いすぎる厳しい人たちの所に赴く者のような表情で、ハバンと共にやって来たアロイが、口を開いた。

 

「娘はいい人を選びました。これで安らかに眠れます」

そう言いざま、ヴァレリアンの頭頂部に右手を当て、まるでエネルギーを吸うように、何かを剥ぎ取った。それはリホのエネルギーだったのだろうか。

 

パール人寄りで生きるとなれば、仕事に優秀なヴァレリアンは確かに愛を得た。ただ、リホがいたせいだろうか…。

彼らのように、自然と共に生きる者の”愛”がなく、理解もできないとなれば、人類には自然からの恩恵…人同士の”愛”なども、一切与えられない、そのように言ってるようにも思える。所詮は、人々の営みとは、そのようなものなのだから、と。

 

なんにしろ、洗練された文明の知識など一切なかったパール人が、”変換器”を取り戻すことに成功した。スピリチュアルや”愛”を信じる我々の方が、戦争や名誉欲・忠誠心などに邁進する者よりも優れている、そのように言っているのかもしれないと思えた。

そんなパール人も、知識や道具、力を得たからこその、勝利だったとは思うのだが。

 

ヴァレリアンからリホの気配を消したように見えた行いは、我々の星(島)を荒すべからず、という原始的民族の願いや言い分を、アロイが代表して伝えたのかな、とも感じられた。

また破綻して、2人は離れることに…離婚や、別れが訪れたりするのだろうか、そこら辺が見どころなのだが、本編ではそこまでは描かれていない。

 

歩み去ったアロイと入れ違いに、ハバンも2人に最後の別れを告げに来た。

「我々は行かねば。あなたたちが、どの時空でも幸せであることを」そのように言える種族として、パール人は去った。こうして、物語はエンディングを迎える。

 

物語のラストで、ヴァレリアンはストレートにプロポーズした。

 

「良い時も悪い時も?」と聞き返され、「悪い時は…なしでいい」と返答する彼に、「無理」とローレリーヌは拒絶した。

「分かった」と、渋々頷くヴァレリアンは、またしても、厳しい条件を飲み、ローレリーヌの尻に敷かれ、親父街道まっしぐら、というクリスチャン的思考の結婚への道を1歩、確実に歩んだ。

 

口元にシワを刻み、笑みを浮かべた様が、まさしくそのような男に見えたのだから、しょうがない。

そうして、画面は船内で絡む2人の姿から遠ざかり、船自体も宇宙の中で遠ざかり、このようなテロップが流される。

To my father…(父に捧げる)

浮気性のヴァレリアンにプロポーズを受け、最初は嫌がっていたローレリーヌが、なぜ最終的には受け入れることができたのだろうか。

それは、仕事への忠誠心という愛よりも、ローレリーヌへの信頼という”愛”を選んだから、だったのかもしれない。

 

『自然からの恵みを 自然へ返しましょう』

“変換器”が”変換器”としての役目をどう果たすかは、映画を見てのお楽しみ!

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